我が国において、大地震、台風などによる大洪水などの災害は、いつ起こっても不思議のないものであり、災害に対する備えは十分過ぎるほどしても、し過ぎることはない。医療体制、水、食糧の備蓄など、国や自治体を始め、各家庭でも各種の防災対策を行っている。
しかし住民の不安は高く、災害に対する備えが十分と考えている人は少ない。災害対策について話題が持ち上がった時、トイレ対策の重要性を否定する人はまずいないだろう。
東京23区内に住む主婦500人に行ったアンケート調査でも、7割強の主婦が災害に対する備えが不十分と考えており、避難生活で困ることは水、食糧、トイレの順と考えている。また、ほとんどの主婦が避難場所でのトイレが不足すると思っている。
この項では、災害時のトイレの必要条件を探ってゆく。まず、これまでの災害時のトイレ対策はどうなっていたのかを述べ、どん な理由で従来の対策では不適切なのかを述べる。
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【編著】木村元保 第2章トイレ研究開発物語 − 第4節トイレ防災学
(執筆:木村元保)より |
木村技研会長 木村元保 |
§1 これまでのトイレ対策
災害時のトイレは、避難場所でのトイレと、避難しないがトイレが使えなくなった場合のトイレの二通りが考えられる。ここでは家庭で災害時に使用するトイレではなく、公共的な避難場所でのトイレを念頭において考えたい。
関東大震災の時の資料によると、当時は汲み取りであったため、汲み取り作業の維持が大きな問題であった。汲み取り器具や車両が焼失したため近郊の各所に応援を求めたが、各所からの水上交通が遮断されており、復旧に時間がかかったという。また公衆トイレはその5分の4が焼失、破損したという。一方、避難場所のトイレ設置は9月10日になって設置場所の報告をさせている状態だ。トイレの問題は防疫上非常に大切であったため、各種の通達が出されているが、必ずしも守られているとはいえなかったようである。
体験した人は、テントや板囲いで急ごしらえの多人数用トイレを造って、遠くからでもわかるように目印を立てるべきだ、と感想を述べている。このように、日本における災害時のトイレは伝統的に、穴を掘って回りをよしずなどで囲うというものが考えられてきた。穴にたまった汚物は、汲み取り用の樽や桶などで汲み取り、しかるべき場所に捨てれば良いとされていたのである。
しかし一口に穴を掘るといっても、現在、都市は過密になり、道路は舗装されて、穴を掘ることは難しくなっている。またそれだけでなく、次のような問題がある。
災害時のトイレとして、ある程度の量を処理するためには、穴の大きさが直径80〜90cm、深さが1m必要だが、まず第一に、それだけの穴を掘る場所があるかという問題がある。また、凪が吹いても雨が降っても、泥が混じつたり土が崩れたりしない条件を満たす穴が掘れるかという問題がある。穴に子供が落ちたりするような、使う人に危険をもたらすものであってはならない。関東大震災の時には、雨水の侵入によるし尿の浸潤が問題になっている。
なお、そのような条件を満たすトイレの穴掘り作業は、大人2人で半日かかる仕事量である。しかも熟練度を要する仕事だ。現代人にとって苦痛になってしまっている穴掘り作業を誰がするのかという問題がある。
掘り出した土の始末、保管はどうするのか、使わなくなった時の埋め戻し作業は誰がするのか、使う人が不特定多数なので、なぜ自分が掘らなければならないのかという不満が生じないか。
●災害時に必要とされるトイレの条件
ここで、現代の都市環境がどう変わっているか、どういうものであるかを整理して、災害時に必要とされるトイレの条件を考えよう。
日本人の生活(トイレ)意識のハイレベル化一現在、日本のトイレは、下水道のあるなしにかかわらず、水洗化されている。災害時には、恵まれた環境にあって水洗トイレに慣れた人が、ある日突然使えなくなるという事態が生じる。日頃の生活が恵まれているため、日頃とあまり落差のあるものは、たとえ非常時といえども、人々に受け入れられない。きれいであること、安全であることなどの最小限度のアメニティを満たすことが必要である。それをどの程度考えるべきかは、次項で述べる。
人々は、災害が起きたからといって、すぐに地方へ避難することはない。 また、交通の断絶など遠くへの避難ができなくなる可能性もある。そこで、環境衛生を維持するために、トイレ対策は欠かせない。トイレが伝染病の感染源になってはならないのである。
●弱者対策
災害時にもっとも影響を受けるのは高齢者、病人、障害者、子供などの弱者である。彼らにとって、安全で使いやすいものでなければならない。
災害時に母親がパニックを起こす元ともなる子供の安全も考え、日本が高齢化社会に入っていることも考慮すべきと考える。
●ライフラインの複雑化
災害が起きて道路に埋まっている本管系が壊れると、給排水のライフラインが壊れ、断水となる。ここで水洗トイレは水洗ではなくなる。だが、一般独立住居系では、排水系は屋外配管の一部が壊れても、排水管への投入が大量でなければ利用可能である。つまり、風呂の残り湯などを使って、流すことはできる。
しかしビル・マンション系の建築では、建物の本体は崩れなくても、屋内外の給水も排水もが配管系の破損により使用不能の状態になる場合が出る。
また、次例のように、他の要素によって使用できなくなる場合もある。
[サンフランシスコ、ロマプリ一夕地震(1989年)の場合]
電気・水道・排水のラインは短期で回復したが、ガス管の破損確認に手間取ったため、モーターを使う電気・水道・排水のラインが動かせなかった(モーターのスパークでガス爆発の危険があるため)。
これは新たに浮上してきた都市災害のポイントで、非常に厄介な問題であるが、東京にも同じことが言える。 したがって、再開までに相当の時間がかかると考えて、災害時の仮設トイレを準備しなければならない。
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『公共トイレ学宣言』